金澤詩人 NO12
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8 あたたかくやわらかいもので すこしつねると 針をぎゅっと押し込むような痛みを感じる この身体を 両手で抱きしめてみると どくんどくんとなにかが脈打ち このなかに なにかが生きていることが分かる からっぽではないのだ プラスチックでもない ひとりのにんげん 生きている このなかにはいのちがあり それを痛めつけてはいけないのに 今日も懲りずに 痛めつける あたたかくやわらかい身体が つめたくてかたくあるように思える それでもこの身体は あたたかさを忘れない やわらかくしなやかに いのちのやりたいことを やらせてくれているのだ かわいそうなことを たくさんやってしまった ごめんね もう大丈夫だよ 声をかけて 身体を抱きしめると 痛かった、と一言叫んで それからは 黙りこくってしまいました あたたかい毛布でくるんであげて クリームを塗ってあげました 少し表情がやわらかくなり とても眠たそうです ごめんね、と 何度も何度も言いましたが もうなにも返ってきません もう一度 ぎゅっと抱きしめると 涙があちこちにあたり あたたかくやわらかい感覚が いっぱいにひろがりました
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