金澤詩人 NO12
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62 東野佳奈 まどろむ 風が冷たい十一月の午後 白く晴れた空 あかるく暖かい窓辺で 背中に陽光をうけ猫のように転がる 傍らに積んだ本二冊はどちらも長い間途中 今は何を読んでもことばが入ってこない・・・ 今朝 一日を紙に書いた ・そうじ ・買い物 ・読書 ・片付け うまくいかないことに慣れればいいのに 「いいんだよ」と私に言い聞かす あの子にも言ってやりたい 時計がいろいろあると チクタクもいろいろある カツカツ コツコツ カチンコチン まるまって 窓に背を向け 部屋を見ると なにやらぐちゃぐちゃしている 目を閉じる 意思とは関係なく 音が入ってこなくなる 私のための窓辺で 空気中の埃がキラキラ漂う 毛布のような空気に包まれ 意思とは関係なく入ってくるキラキラ 「なんとなく いいかんじ」と出て行く 入っては出て行く 私が まどろむ あの子にも分けてやりたい この午後 独りのための窓辺を モダンタイム 向かい合った人 隣同士の人 その間に埋め尽くされた 熱を持った機械 人 機械 人 機械 壁 風 四角い仕事場に響いている機械音 のうみそをかきむしられそう? 人の声は ない 電子音 電子音 カタカタと画面に増えていく情報 状況 報告 確認 タイムカード おかしい どこかで聞いたような話だ もしも 叫んだら なにがおこるだろう そんなことを想う

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