金澤詩人 NO12
6/70

6 長いこと背負っていたわたしは くたびれて縮んでしまって そのまま眠ってしまったので 降ろして布団をかけてみた 新しい旅はここから ひとりで強く歩む 背筋を伸ばして歩いていく わたしは今日ここから 古いソファ 滲んで消えていった 目の奥 どうしてこんなに愛おしいのだろう 確かに苦しかったはずなのに あんなに泣きはらしていたのに 泣いて 泣いてぐしゃぐしゃになったところで 今が終わった それは突然で 覚悟もなにもないままに しがみついていたものを捨てることになった そんな気分だった 古いソファは 毛玉もついて かたちも崩れて それでも居心地がよくて どうしても捨てるなんてことは できそうにもなかったけれど 滲んで消えていった もう見えなくなってしまった 目の奥 わたしの姿 離れていくのが悲しくて 終わってしまうと戸惑った それでも どうしてこんなに愛おしいのだろう どうしてこんなに美しいのだろう あんなに苦しかったはずなのに あんなに泣きはらしていたのに しがみついていた 離せないと思っていた過去はもう 手のひらからこぼれてしまって 取り戻せない 二度とあんな日々はない 悲しくて苦しかったけれど 確かにわたしは人を愛していた 心に愛を隠して生きた

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る