金澤詩人 NO12
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49 岡安 啓 ヒトリトヘヤ 風が流れ雲から月が生まれると 密かに眠っていた雨上がりのアスファルトが光りだし 命を惜しむように輝いている アパートの部屋の隅 そんな外の様子を眺めて 静かに 一人眠る ささやかな夢を想いながら 夜風と野鳥のさえずりと時折通る車のアクセルを吹かす音とともに この街に住む我 独りの男 身寄りもない 小銭もわずか タバコはきらした ただ何となく居心地が良いこの六畳一間 最近子供の頃をよく思い浮かべる 淡い幸せだった頃のこと 僕は幸せだった でも今は独り この夜 天井を見ながらそれでもなぜか満たされている 窓の外から車のヘッドライトが差して 影がぐるりと天井を回った 隙間風が足元に吹いた 薄い布団にくるまって眠りに落ちた
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