金澤詩人 NO12
47/70
47 空洞で雨宿りをすることになってしまった その時に空洞の中で テッポウ虫の親子が交わしていた会話 こんなに掘ったって雨には勝てるわけはない 雨が降れば根をさらに強くして ぼくらが掘った幹ではなく ヤマザクラは別に大きな枝を張って 倒木に備えるに決まっている そんなにヤマザクラは弱くはない 雨足は猛烈かも知れないけど でも雨はやさしい贈り物 恵庭が酒樽に浸かってしまったような夜半 わたしはテッポウ虫の作った空洞から飛び出して 自分の寝床に空路で帰ってきたようだった はなしの前後はよく覚えてはいないが 雨上がりをいち早く知らせるように 空中高く旋回する鳶たちよ 合掌です そのあと自転車がどうしてアパートの駐輪場に戻されたのか いまだに判らないが 鳶と雨とテッポウ虫は不思議な体験を連れて来て わたしを睡魔に導いてくれたのであった 隼はやぶさ 日本の母親は愚かになることで いや愚かではなく鈍化することで オサナゴを養い男の車を後押ししてきた 男はこの鈍化を利用して給金を得てきたに過ぎない あらゆる男の支え手にオナゴがいたことを 忘れてはならない 男性諸君にオナゴの為に鈍化せよと裁決しないまでも 鈍化しない二人がいることが何よりタイセツナコト 鈍化ではなく一蓮托生 互いに育てあえる肥やしでなければならない オカアサン あなたの水でふやけたような素手の赤斑な肉質が物語っている 水田で夜中に深く田植えをする 土間で残り物を啜る 咀嚼するかしないかの瀬戸際の ただ暗がりの中で冷や飯を掻き込んで すべて最後に回された人権の蓋の滴を 子ども時代の母屋の裏の井戸端で 故郷を見ていたのだろう 母の帰るに帰れぬ嫁としての漬物石に押し潰された 引きちぎられる望郷を 肩越しに見ていた 自惚れるな 男たちよ 母親がわたしを生むために 里帰りしたとき 母親が嫁ぎ先から突然に里へ帰ったとき
元のページ
../index.html#47