金澤詩人 NO12
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44 樺太と稚内を交易していた時代に 世代分断の暴挙 アボリジニの生まれたての赤子が白人の手で投げ捨てられる 英語圏の勢力が押し寄せて殖民地が繁殖して その繁殖を続けるためのあらゆる画策が敷かれた 世代分断は言葉と習慣文化の根を絶やし 次の世代への橋渡しができないように 生れたての赤子は両親から離されて 徹底的な白人教育を注入して行った そうすれば白蟻に食われて朽ちた樹木が 時雨のような雨の夜にバッサリと倒れるように 親の世代が朽ち果てるから 希望を繋ぐはずの生れた赤子を取り上げておいて 親をネグレクトのように放置した結果 根が絶えて空漠に晒されていく運命に持っていく 母国語を喋る親の世代には見向きもせず 手間を掛けても回収できる子どもの世代には 英語を大皿盛りで食べさせて飼育した 子どもたちが長じた後に 白人たちはさらに残酷な手法で親の世代に 絶望を突き付けて行った 親子の面会場面で 長じた我が児を抱きしめようと姿を現したものを いざ目の当たりに接しても会話もできない 異人との対面のように何も伝え合えずに 天を仰ぐ親の世代 アボリジニ 戸惑うアボリジニの子どもたち この断絶を晴れて成功させるために すでに筋書きはできていたから アイヌが仕掛けられた罠のように 日本軍が東南アジアで仕掛けた皇民化教育のように 手を握り合って語りかける側は 親の焦燥砂漠からの渇きでその渇きがかえって空回りをする あとは先住民が老いて消滅するのを待つだけのこと アボリジニが集めたエコポイントまで 潮の満ち干を羅針盤にして育てあげてきた 椰子の実は根元から稲刈りのように 刈り取られて何処へしまったのやら 種も実もなく その中にあるはずの胚芽が死滅してしまったから 断絶 あの潮風の旋律に乗せた 浜辺の夕凪も何処に行ってしまったのか いまは国が保護したゲットーの中で 鳥獣保護指定地域のような囲いの中で 細々と保護された音楽が息を繋いでいるに過ぎない 秋彼岸に 雪虫がヤチダモの樹の周囲を舞っている 対雁の空はススキの穂で掃いたように晴れて 碑に向かう背中を軽くしてくれた 以前訪れた時この背中に咲子が顔を埋めてきて
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