金澤詩人 NO12
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40 樺太アイヌの上昇気流 一人ひとりの顔が気流に映されながら 気泡とカップリングして 左右に揺れている 捧げられた読経に支えられてそこここに 登場する幽霊の顔 貌 カオ 競り上がる経文の文字の字列が 石堂了正和尚の口腔から搾り出されて 安寧の弧を描いて 夕暮れに子どもたちが遊ぶ 「はないちもんめ」の歌声に木霊して 墓前祭の空気の彩りを 熟した柚子の彩りに変化させて 太鼓を打ち鳴らして 六月だというのに日ざしは秋の稲刈りの頃の 稲田の切り株の上を飛んで歩く ワラシが転げまわって 餅つきの御馳走に頬鼓舌鼓打ち鳴らす お尚の舌は空也のように 天高く突き上げては至る所に 阿弥陀如来を配して その即身仏と蜘蛛の糸で繋がった 子どもたちはまるで操り人形のように 人形浄瑠璃を演じて 年に一度の人情話に寛いだ 寛いだ 少女によるムックリ トンコリの演奏は 収穫祭の勢いで霊前に捧げられておりました 咲子との散歩 咲子が何を伝えようとしたのか それが判ったような気がした 夏と秋が同居した昼下がりの散歩で それが前頭葉に入って来るのを感じていた 駅に向かう道すがらすれ違った 枯れかけて房を落としかけている紫陽花の花弁や 小粒のりんごのように仕上がって重そうに揺れている 桃色のコスモスの倒れかかった茎 ポプラの葉先が枯れかかり斑模様に黄と 緑が混ざり合ったものが 牧場を背景に入れ替わりつつ冬の空気に 触れられてさざめいていた 休日のせいか線路を通過する列車は 鈍行列車が多くて 穏やかな夏の名残りの温かい日差しを 惜しむかのようにのったりと通り過ぎて行った 線路沿いの家々が協力して除草をしたのか 柵に沿って所々に取ったばかりの草が こんもりと山になって点々になってるのが こころの散髪にかかったようで なんだかとても清々しかった なんの変哲もない散歩の道すがら このなんの変哲もない時間と空間を味わう自由というもの

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