金澤詩人 NO12
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4 百瀬以知子 過去 忘れてしまったよ あの頃のわたしを 澄んだ空気のようで 冷たい水のような 張り詰めたこころで 糸をぴんと張って 感性だけが研ぎ澄まされた あの頃のわたしを 忘れてしまったよ いくらでも溢れていた 好きも嫌いも愛しているも 今ではもう すっかり落ち着いてしまったよ きっといいことだろう 忘れてしまったよ 鋭い目をしていた あの頃のわたしを 忘れてしまったよ 時は流れ大人になり いろんなことの意味も なんとなく分かるようになり そこで出会える景色は 絶好の見晴らしの 山の上からのようで 素晴らしいものだ 忘れてしまったよ 毎日泣きはらしていた 悲しくも鋭く美しい あの頃のわたしを つまらない彼女 見違えたよ ずいぶん綺麗になって ほんの一年前とは 別人みたいだ そうね 私もそう思う ほんの一年前の自分が 自分だったのか分からないわ 一年しか経っていないのに ずいぶんと歳をとったような気がして・・・ まだ若いのに 若さを振りかざすようなことが
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