金澤詩人 NO12
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39 大澤 榮 屈辱が晴れる日に 屈辱の折れ曲がった鉄の柱にぶら下げられた土人追放 屈従は鎖の首輪を掛けられてゲットーに入る日 屈伏した食生活 何としても畑に住み着けない 屈折した生業 漁場も失われ手足を捥がれた 屈託のない顔つきで子どもを見つめる母親 雪は明日には止むであろうか もう何日食べていないのか分からなくなった 樺太へ夏秋の漁業シーズンだけに限り 押し寄せた和人商人が遺した功罪は 給金を米で支払うことで 獣や木の実や葉菜中心から 米飯中心に傾かせたこと 文明に少しでも近づけられた為に 文明の便利さから逃げられないことになり もとの狩猟をまっしぐらに求められない そうしながらも 半眼はコタンでの季節移動運搬車の ボヘミヤンの木の皮に順化した 木の皮一枚になったような家族の立ち位置が 親々として親しみを増す 川伝いの蛇行したその山の中腹に 辱知の人が住んでいて 木の実を食しながら行者ニンニクを収穫して 街に売りに行った方がいいと いやいやゲットーを脱出して 市中に紛れた方が だが日本語が喋れないし 和人の所で雇ってもらえればやっぱり アイヌであることを明かさなければならない 明かせば侮辱されて 墓前祭から 待ちに待った墓前祭 踊るよ 踊る 丘の上の雲が目を回すように 蝸牛の体内に迷い込んだような あたり一面が隆起して浮島になった感覚に襲われる 赤飯やら豆の煮物 山河の産物を頂いて丹精込めて料理した 祝の宴に相応しい白酒も用意された 歌えや歌え 掛けろや掛けろ 地べたの上に積み上げられた御馳走の数々 祈りは樺太に向かって捧げられて 輪になってランデブーのように 踊りも捧げられた 対雁(ついかり)の碑(いしぶみ)に浸み込んだ末裔の血液は 逆流して 逆流して 天然痘とコレラで野焼きされた 骨壺さえ用意されなかった 投げ捨てられたように寄せ埋めされた

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