金澤詩人 NO12
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28 持ちつつ捨てる そんな繰り返しの繰り返しの 私の生が悲鳴を上げるまで ふと気が付けば 病が住処となり 多くの持病に愛され 足元は流水に浚われ 抗えない来世の訪れ ああ身に沁みて身に染みて 身に染みた厳しい冬がやって来た 訪れのあの世 あるもんか ありはしない それなのにあの世を持ちたいと 墓地を探し墓石に見入る とらわれの身になるのはもう 沢山だ 終りにしなきゃ 終りにさせよう そんなもの私にとって無用のもの 突然除夜の鐘咽び泣く 闇に浮かぶ追想 母と遊んだ幼い頃の 夏至の日の 駿河の海 私の灰をかぶった 蟹がむっとする 遠い思い出 燦燦と散り落ちる 枯れ葉の雨の中 雲間の一条の斜光に微笑んだ 赤いリンゴがみずみずしい 噛む音も噛む音も 清く清く若々しく 胸の中に響きわたって 細胞という聴衆が暑く熱狂する 突如カラスの葬送の鳴き声 恋慕が胸底に落ちる ああ掻きむしり掻きむしられる 逝ってしまったあなたを 一度はあれほど強く 噛み尽くした私なれど だがもう私の身を 焦がさせ 焦がさせ尽くして なにもか悲哀と悲愴に晒させる 日照りは静まってしまった ああ流れゆく ときを刻んだ若い葉脈も 今では黄色い枯れ葉となって 梢を去り尽くすために 去り尽くす

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