金澤詩人 NO12
26/70
26 あるのは 母が唯一望んだ自分を入れた 小さな缶 寺の古びた納骨堂の 母が唯一望んだ片隅に ああ二つの小さな顔 戦後 帰還直後黙して逝った 良人の缶と並んで 寄り添うように 分かち合うように 愛し合うように・・・・ 母の生涯の心の願い 九十で逝った母 三十六で倒れた父 一人四歳児を背負った戦後より 母男に燃え男たちを避けながら 自分を護り孤独に耐えつつ 心の拠りどころ誰にも依存せず 孤高に生き愛した男の側に やっといま・・・ われ七十逃れ得ない死が 生のうちに染み込んで 死を穿ちながら処刑場に赴いている 母一人置き去りにして 異邦に解き放ったわが生よ! 我欲の冒険に明け暮れた親不孝者! 死ぬまで母を孤独と悲哀に 貧に晒した 利己主義者よ! ああ罪あるわが生よ! 友よ! 親愛なる友よ! せめても鞭を無限に打ってくれ! わが濁り汚れのペルソナが 剥ぎ取れるまで 力を込めて もっと力を込めて!! 清めにならぬとも! 母と私 母が逝った 背は135センチ弱に 体重40キロ弱にまで 縮まって 孤独の花弁が落ちた 九十一歳になる前に 終戦直後良人は マラリアで逝ってしまい いたいけな幼子は母の妹に託され 母は出稼ぎに里を後にした 長い長い間 這いずり回った闇の時代から 見せかけ輝く高度成長の
元のページ
../index.html#26