金澤詩人 NO12
24/70

24 と思えば 俺は自分自身にすがるほかない 奴は他人のものではないのだ 俺が歩めば奴も歩む 俺より先に進むことはあっても 後からついてくることはない 俺そのものが奴の仮装なのだ 真夜中のサイレン 都会にこだまする ああ俺の人生への警笛の響き 果てしなく 俺の存在を穿つ ならば穿て! 穿ってくれ!! ああ今日も 真夜中のサイレンが 俺になる 秋の夕闇 見渡す雨天 鳥たちが喪に服したように 隊列を組んで 涙をこぼしつつ ゆっくりと彼方に沈んでいく 秋の孤独な陽がストーンと落ちる 夕闇のなかで 見えるのはなぜか 「ゴドーを待ちながら」の老人たちばかり あそこにもここにも 街角の片隅で息を切らしながら 公園のベンチにうずくまりながら そうやって 夕闇に取り残されて 孤独にも 心臓の音が弱まっていくのを 数えながら 夕闇の秋の顔 乾いた瞳を慰めるのは 決まって暗闇から抜け出せぬ 暗闇に安心した魂かもしれない その魂も骨壺に揺られながら どこか遠くに運ばれて戻らぬ運命 侘しいぞ この秋は だが夕闇は落ちつきを与え 俺も夕暮れの顔になる 喪のような雨も止んだようだ 死の遠近法 恋人のように 奴は遠くにあり 待ち焦がれる俺 愛人のように 奴は近くにあり

元のページ  ../index.html#24

このブックを見る