金澤詩人 NO12
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19 赤木祐子 巫女 イタコはあの山にではなく ここにいる 自分のものではない 他所の部族や死者の言葉を 呼び出しては浴びせる あなたは汗をかけず 熱を出しながら 子供を叱った親の台詞や 教室で聞いた講義内容や 書物に印刷された言葉で コラージュした 傑作を物する 誕生と死だけ見ている わたしは生に興味がない あなたのなかに閉じ込められた あなた以外の誰かの想念にも ある症状 奥歯の下で骨が唐突に 不快な低音を立てました 胸が烈しくよじれていきます どの空も青くないのだと 気付いた頃から時折 この音が響くようになりました 歯を噛み耳を傾けていると 胸に高音が挿し込まれ その場に突っ伏し躰をくねらせます ―心臓はある種のジレンマに収縮します 前駆的に顎の骨がおかしくなるのは 卵巣が心臓とつながっているからです― 循環器の医師が笑って告げたので それは医学的な真実なのでしょう あるいは婦人科を揶揄した冗談でしょう 循環器センターを出て花壇に腰かけました そんなふうにじっとして 植物になろうとしている 老女を見たことがあるのです 欲しがらなければ葛藤せずに済むところを 嫌悪しながら欲望し続けるにしても 病後の成長を思うと 病没は忍びないものです
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