金澤詩人 NO12
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18 藍森 翔 森 ドイツの黒い森の端っこに住んだ 町に廃墟になった教会があり、その尖塔にコウノトリの巣があった 本当は毎年アフリカから飛来していたものが、アフリカに戻らなくなったということで、その南西ドイツの 西端のライン川向こう、フランスのアルザスも同様にコウノトリが名物になっていた 初夏の折、黒い森と巣の間の原っぱの上で、カップルが空中旋回しながら恋の乱舞をしていた エラいものを見てしまったと思った しばらくして雌が巣に居座り、卵を温め始め、雄はせっせと森の川と巣の間を魚を仕留めて往復していた 巣は町の消防署がメンテしていて、カメラが設置され、近所の水車小屋の門扉の塀に仕込まれた モニターで、様子を見ることができた 町の超教派聖歌隊に入っていたわたしは、聖歌隊が資金集めで小屋の敷地で行っている恒例のBBQの スタッフに加わりながら、大家夫人でもある聖歌隊員に、黒い森出身のおじいさんを紹介された 夫人はバイエルン出身なので、おじいさんの黒い森訛りは、いまだに完全にはヒアリングできないと言いながら わたしの通訳をしてくれた おじいさんは、日本にもビールはあるか、なんて呼ぶのか、そうか、ビールでいいのか、ここにある赤カブは 日本にもあるか、そうか、それさえあれば、わしも日本で暮らせるわぃ、 このかわいい日本のメートヒェン(!)に乾杯と、上機嫌 時に、アオサギも上空を森に向かって横切る いいか、あれは、コウノトリではないのだぞと、夫人が言う ちょっと、知ってた
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