金澤詩人 NO12
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11 ふとした時に あなたのことを思い出します 喋り方とか 言葉の選び方とか ほんの些細なことだったけれど 私の人生の中にあなたがいることが 幸せなことだと思いました ほんとうは 泣きはらして暮らしたいけれど そうはいかないので なんとか 涙をこらえたり笑ったりしています 泣きはらして暮らしたいけれど それでも幸せなことだと思いました お日さまにあたりながら このやわらかい風が どこまでも吹いているのだなと思えて それだけでいいような気がしました 私の知らない街で あなたにはあなたの日常がある もしかしたらもう あなたの中の私は消えているかもしれない それでも 頬を撫でる風がやわらかいような そんな幸せなことだと思いました 埋まらない穴 顔つきが鋭かったあの頃は きらきらした物を買うことで 心を満たすことが多かった 物だけを買うと 一時的に心が満たされたような気持ちになり そのぶん 埋めることのできない心の穴が大きくなる 物を買うということで 一過性の麻薬みたいな 満たされた気持ちが心に広がって またそれを味わいたくて 物を買う 必要なのか必要ではないのか そんなことは 重要ではないのでした もう あの頃が終わってしまったので 私の顔つきは穏やかになり 物を買うことで

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