金澤詩人 NO12
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10 もうその場所には 二度と戻りたくない そんなことを思う 新しくなるときは 突然やってくる ほんの小さなこと 日常の一部 ささいなことから 私たちはなにか大きなことを感じ取って 新しくなる それは予測不可能な こころの脱皮のようなもので その瞬間に立ち会えることは とても幸せなことだと思える 若い女 すごいでしょ 若くてきれいで 女としての価値は 今しかないのよ 得意げにそんなことを言う彼女 肌を見せ、煙草をふかしながら 賞味期限があるのよ ニジュウゴまで 女ってそういうもの なんでも若いうちに済ませないと 自慢げにそんなことを言う彼女 若い女だということに 人一倍こだわって生きてきた 歳をとることが どんなに楽しいことなのかを 彼女は知らない 一日一日 確実に老いていく自分を見て 価値がなくなってしまったと ため息をついている 歳をとることが どんなに美しいことなのかを 彼女は知らない 若い女ではない自分に 若い女の化粧を施して 歳をとる楽しさ、美しさに気づかないまま 歳をとっていく 幸せなこと 風がやわらかくなりましたね そちらはどうですか 幸せでしょうか
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